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2006年 07月 30日
前々からこの小説のことについては書きたかったのだけど、
好きなもののことほどうまく書けない、という例に漏れず。 男よりも女のほうが精神的に上で、女が男を「手のひらの上で転がしている」、「威張らせてあげている」みたいな関係って、わりと美しく語られがちじゃないですか? そういう話を好きな女性もなんだかな、だけど、それが男性だったりするとこりゃだめだ。 「俺のことを手のひらで転がしてくれるような女の人がいい」って、あんたそれ志低いよ、とか思ってしまう。 自分が手のひらで転がされているという意識がなくて威張っている男のほうがまだマシ。 閑話休題。 そんな意味で、この小説はいいと思うのです。 ちゃんと、「男をいいようにおだてて甘やかしてやさしくするなら、それを一生続けなさい。 途中で『あんたへのやさしさの玉は出尽くした』というのは無責任」と言っているから。 ちゃんと主人公の乃理子自身がそう思っているから、読むほうはむしろ悲しくなる。 「だましだまし」でもうまくいっていた二人が、そうではなくなっていくことに切なくなるのですね。 作者の田辺聖子はこのあとがきの中で「どんな波乱万丈な物語より、愛し合っていた二人の心がほんの少し離れ、(夕焼けの色が褪せるように、白い布にしみが静かに広がるように)変わっていくさまのほうに惹かれる」 というようなことを書いていて、ああ、本当にそうだなと。 確かにこのお話も、あらすじだけ要約すれば、「仕事を持った30代の女性が年下の御曹司と結婚したはいいけれど、そのうちうまくいかなくなって別れる話」なのだけど、何度読み返してもほろ苦く胸がつまる。 そんな小説なのです。 乃里子はちょっとした「女1人なら口に糊して生きていける」仕事を持ち、情に厚くあたまがよく、ルックスも正統派の美人ではないけど、すんなりしたきれいな体をした32歳。 (「いくら食べても太らない」という記述が憎い) 彼女に猛烈に言い寄った挙句、結婚した年下の「剛ちゃん」は、大会社の跡取りで色男で自信家で、仕事の才覚もヒトを惹きつける魅力もある。 人として子どもというかちっちゃいというか、ときにとてもイヤな奴にもなるけれど、基本的には可愛げがある、というような男。 例えば、ちょっとしたことで二人が喧嘩する。 剛は自分からは絶対にあやまらない。 仲直りをしようともしない(というかその才覚もない)。 で、乃理子はいつもさりげなく、実に上手に彼の機嫌をとって、いつの間にか仲直りしてしまう。 それも「剛が怖いから」ではなくて「そういう仲たがいをしている状態が面倒だから」。 相手に対して本気で腹を立ててはいない、ともいえるけど。 それをどこか楽しんでやっているようなところもあって。 そんな感じでこの夫婦は仲良く3年間暮らすわけです。 しかしやはり、それはいつまでも続かない。 だめになる細かなきっかけはいろいろあるのだけど、 要は乃理子の剛ちゃんに対する『やさしさの玉』が出尽くした、ということなんでしょう。 象徴的なのが、物語後半で二人が喧嘩したあとのこと。 ぷいっとふてくされて別室に消える剛に対し、乃理子は思うのです。 いつもならここでベッドにもぐりこんだり、剛ちゃんの好きな(彼の)実家の話を持ち出したりして彼のご機嫌をとるところで、それは容易なことだけど。 でも…、それを「何だか面倒だな」と。 二人の仲がうまくいっていたのも、大半は乃理子の才覚で、しかもそれは二人できちんと向き合ったというよりは、彼女が剛を「ああ、いいからいいから。よしよし」していた面もある。 剛は自分が甘やかされていた、持ち上げられていた、手のひらで転がされていた、なんて意識はあるはずもなく。 だからこそ「私の、剛に対するやさしさは、無責任のやさしさである」と乃理子は思うのです。 「剛が私にやさしくする、というよりは、私が剛にやさしくする、その方が罪ぶかいのじゃないかって。 私は甘やかせ、安心させているのに剛は知らないわけである」と。 ラスト、家を出た乃理子は、慕っている年上の中杉サンに、「あたし、だましだまし保ってゆく生活に疲れました」と話します。 「いままでお芝居していたの?」 「芸術家の衝動で、ね」 「お芝居と知らんかった人は、かなわんやろうなあ」 そうつぶやく中杉サンに、「あ、いわんといて、いわんといて、胸が痛うなる…」。 楽しいときもあった、いいときもあった、そんなあんなこと、こんなこと。 この前後にもう一つづつお話があって、いちおう3部作になっているのだけど、ベストはやはりこれ。 田辺聖子の作品の例に漏れず、おいしそうな食事の場面もたくさん出てきます。
by guri_0922
| 2006-07-30 22:08
| 本
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